ノロウイルス感染症とその対応・予防 (1/4)
国立感染症研究所感染症情報センター
晩秋から春先にかけて、乳幼児や小学生などの低年齢児や高齢者、施設入所者等に良く見られる病気の一つが嘔吐下痢症です。冬季の嘔吐下痢の代表ウイルスとしてはノロウイルス、ロタウイルスがあります。細菌性食中毒(サルモネラ、赤痢、O-157等の腸管出血性大腸菌感染症)と、ウイルス性の嘔吐下痢症との大きな違いは、一つは時期の違いがあります。細菌による場合は夏場に多いのに対し、ウイルスによる場合は冬場に多いのが特徴です。
嘔吐下痢は食中毒から生じることも多いですが、上記のような冬季の嘔吐下痢症では、発端は食中毒であったとしても、施設や病院等に持ち込まれると、爆発的に感染症として流行する場合があります。以下に、冬季の嘔吐下痢症の中でも最近検出可能となってきたこともあり、集団の嘔吐下痢症の犯人としてよく問題となるノロウイルス(小型球形ウイルス:《別名》ノーウォーク様ウイルスもしくはノロウイルス)について記述します。
ノロウイルスは、以前は「お腹の風邪」、「お腹のインフルエンザ」などと誤解され、インフルエンザ様疾患といわれて学校等では学級閉鎖となる事がありました。冬季に多く(通常11〜12月がピーク)、生カキを食することによって発生する食中毒はよく知られていますが、ヒトからヒトへの伝播力(感染する力)もきわめて強く、集団発生した場合には、その主たる原因が集団食中毒によるものか、あるいは発端者を中心としたヒト―ヒト感染によるものか判別できないことがしばしばあります。また、乳幼児を中心とした小児や高齢者、施設入所者などで集団発生することが多いのですが、一般成人でも発症することもあり、病院内で院内感染として広がる場合もみられます。ノロウイルスは「はしか」や「風しん」のように一度発症すると生涯かからないというものではありません。これはノロウイルスといってもいろいろな種類があることと関係しているといわれています。以下に、ノロウイルスに関する症状・治療、感染経路、予防方法についてまとめてみました。医療機関や高齢者施設、乳幼児や小児の集団生活施設の関係者の方々の参考になれば幸いです。
【ノロウイルス感染症の症状・治療法について】
@症状:主症状は嘔気、嘔吐及び下痢です。血便は通常ありません。発熱はないわけではありませんが、その頻度は低く、あまり高い熱とはならないことが一般的です。小児では嘔吐が多く、成人では下痢が多いことも特徴の1つです。嘔吐・下痢は一日数回からひどい時には10回以上の時もあります。吐物には胆汁(緑色)や腸の中のものが混じることがあります。感染後(ウイルス曝露後)の潜伏期間は数時間〜数日(平均1〜2日)であり、症状持続期間も数時間〜数日(平均1〜2日)です。元々他の病気がある等の要因がない限りは、重症化して長期に渡って入院を要することはまずありませんが、特に高齢者の場合は合併症や体力の低下などから症状が遷延したり、嘔吐物の誤嚥などによって二次感染を起こす場合がありますので、慎重な経過観察が必要です。
A治療法:ノロウイルスに対する特効薬はありません。症状持続期間は前述したように比較的短期間ですので、最も重要なことは経口あるいは経静脈輸液(点滴等)による水分補給により、脱水症となることを防ぐことです。特に小さなお子さんや高齢者にとっては、脱水は大敵ですので、水分補給は大切です。抗生物質は無効であり、下痢の期間を遷延させることがあるので、ノロウイルス感染症に対しては通常は投与しません。その他は制吐剤や整腸剤投与等の対症療法が一般的です。下痢が遷延する場合には止痢剤を投与することもありますが、発症当初から用いるべきではありません。
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